現代の音楽に関する「数字信仰」について。(THE BOOMの元ベーシスト・山川浩正氏による特別寄稿)

現代の音楽に関する「数字信仰」について。(THE BOOMの元ベーシスト・山川浩正氏による特別寄稿)

5/9(火)記事がYahoo!ニュースに掲載されました。

「島唄」、「風になりたい」などのヒットソングで知られるバンド「THE BOOM」。1993年発売の「島唄」は150万を超えるヒットとなり、記憶にある人も多いだろう。2014年、THE BOOMは25年の活動に終止符を打ち、解散する。 THE BOOMの元ベーシスト・山川浩正のライブ写真 現在も音楽活動を続けるTHE BOOMの元ベーシスト山川浩正氏は変わりゆく音楽業界の中で現在の「数字」が重視されることに危機感を感じているという。「数字信仰」とも言うべき音楽業界の現状について、山川氏は何を思うのか。

■「良い曲」は自然に広がっていった過去の音楽シーン

少し、昔の話をしよう。

音楽は流行であり、娯楽。そして、それはレコードやCDなどお金を出して手に入れるものだった。しかし、あるときを境に音楽の評価というべき指標が変わってくる。

日本の歌謡曲が盛り上がった1960年代から、J-POPバブルと言われた1990年代までの音楽はCDの売上がすべてだったが、2000年代以降はCDの売上よりも、オンラインストアのダウンロード数やYoutubeでの視聴再生数が重視されるようになる。別の言い方をすれば、音楽は買うものではなく無料で聞くことができるようになったとも言える。

いまはアップルミュージックやAmazonプライムなどに代表されるいわゆる「サブスクリプション」と呼ばれる定額制の音楽視聴が主流で、単体のミュージシャンのCDを購入して聞くこともあまり多くはない。

インターネットが当たり前のインフラになり、どんなジャンルの音楽でも手軽にアクセスできるようになった。これ自体は悪いことではないと思う。しかし、あなたが検索してヒットした楽曲の最初の評価は「どのくらい再生されているのか?」という指標になっていないだろうか。これを僕は危惧している。

先に伝えておくが、決して数字すべてを否定するつもりはない。僕らがTHE BOOM時代に発表した「島唄」は150万枚を超えるヒットになったし、こうした数字が出るからこそ、25年もの間、音楽活動を続けてこれたというのは事実だと思う。実際、ヒット曲が出なければレコード会社などとの契約が切られてしまうこともあるし、そういう意味では数字はひとつの重要な指標といえる。しかし、過去と現在では少しその「数字」は違うのではないかと僕は考えている。

インターネットがない時代には、音楽は口コミでしか広がらないものだった。例えば、友人のひとりがテレビの音楽番組やラジオなどであるバンドに偶然出会う。これまでにない音楽を提供しているバンドで、その友人はすっかりその虜になる。CDを購入して聞く。今度はその感動を誰かに伝えたくなる。カセット・テープにダビングして別の友人に配る。それを聞いたその友人が共感し、感動する。そしてまた別の友人に広がっていく。過去、音楽はこういった広がり方をしていたのだ。

つまり、「音楽が良かったから」広がったわけである。再生数などの指標は当然ないし、ただただ楽曲の評価がされていた。それで広がったものは、本当に「音楽として」評価されたということになる。

もっとも、1990年代はオリコンを始めとするCDランキング等も指標になったため、後期は純粋に音楽が評価されて売れたかどうかは怪しい部分がある。やはり、ランキング上位だからという数字で評価されるからだ。とはいえ、ランキングはきっかけで「聞いてみてから評価する」というスタンスは強かったと思う。それが過去の音楽の評価方法だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7add7796e756bc56876500255274b34fb0d8b19e?page=1